「週刊現代」2018年7月14日号より

 

企業の皆さんに「早稲田政経と慶應法、

 

どっちが欲しい?」と聞いたら…

 

内定式の日に、ちょっと気になった

むしろ明治のほうがいい

「早稲田の政治経済学部と慶應大学の法学部の学生が最終選考で並んだとき、どちらを選ぶかと言われれば、今なら慶應を採りますね。

早稲田と慶應両方に受かった学生は、慶應に進学する割合が圧倒的に多い。こうしたデータもあり、慶應法が企業の間でも人気になっているのです」(電機メーカーの採用担当者)

全国の私大トップに位置する早稲田政経と慶應法の2大学部。だが、最近は「慶應法のほうが欲しい」と答える企業が増えている。

メガバンクの採用担当者は内情をこう明かす。

「昔から営業職に向いているのが早稲田で、慶應は経営や企画部門に向いている傾向がありました。慶應出身者は、なんでもスマートにこなすけど、ときに上から目線で社内の輪を乱すこともある。

その一方、早稲田は持ち前の反骨精神で、泥臭く頑張るタイプが多く、トラブルのときには頼りになる存在でした。うまく両者の棲み分けができていた。

ところが、最近の早稲田の学生は、与えられた仕事はきちんとこなすけど、昔ほどガツガツしてない。どこか慶應生のようにうまく立ち回ろうとしているように見えます。

でも、こちらとしては慶應生と同じことは求めていないんです。それだったら、頭でっかちでないぶん明治や法政の体育会出身者のように、がむしゃらに頑張る子のほうが採用しがいがある」

強まる安定志向

早稲田の政経といえば、個性的な学生が多いとされてきたが、最近はその方面でも慶應に水をあけられているという。

大手広告代理店の人事担当者が言う。

「昔は早稲田政経といえば、発想の面白いヤツがいたのですが、最近は大人しい子が多いですね。こぢんまりとしてしまった気がします。それに引き替え、慶應法の学生は、変わり者もいて、いい意味で就職してからも目立っている」

’16年度の上位就職先(下の表)を見ると、両校ともメガバンクや損保といった金融業界への就職が目立つが、それを抑えて、早稲田政経の就職先1位となったのが「東京都職員I類」だ。

就活に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が語る。

「もともと早稲田は公務員の就職者数が多かったのですが、1位になったということは近年、堅実志向がさらに強くなっていると考えられます。

30年前、早稲田の政経といえば、自由で反骨精神に富んだ猛者たちで溢れていた。それが時代とともにずいぶんと変わってしまった。

一方で、慶應法は今も昔も変わらず、三井物産や三菱商事など商社が就職先の上位に入っている。早大生が内向きになっていくのとは反対に、慶應生は世界に目を向けている。企業が欲しいと思うのも当然ですよ」

昔は慶應より早稲田のほうが「チャレンジ精神」に長けていたはずが、いつのまにか、早稲田のほうが「安定志向」に傾いている……。

「’80年代までの早稲田には、地方出身者が多く『都会の人間に負けるか』という精神の学生が目立っていました。しかし、今はそういった学生が少なくなり、首都圏の1都3県から通う学生が入学者約9000人のうち、68%を占めている(’17年度)。

しかも中高一貫校出身者で、親の言うことを素直に聞いて、真面目に勉強してきた子が多い。だからバンカラとは縁遠いんです。冒険はせずに安定を求める。これが近年、早稲田で強まっている学生気質だと思います」(『早稲田と慶應の研究』の著者・オバタカズユキ氏)

昔の早稲田は、厳しい受験戦争を勝ち抜いた学生が集まっていた。だが、いまや入学者の36%が受験を経験していない無試験組(’17年度)。慶應も無試験入学者が40%なので、ほぼ変わらない。しかも、早稲田はこの割合を今後60%にまで上げる計画だ。

就職を語る上で外せないのが、OBの存在。慶應には「三田会」という強大なOB組織がある。

「こうした人脈の強さが彼らの強みであることは間違いない。早くから企業人や経営者と話をしているので、ビジネスマナーや商談の作法がすでに身についているのです。もちろん鼻につくこともありますよ。でも、悔しいけどあの人脈は使えます」(大手商社の人事担当)

これら三田会の人脈に加え、慶應は、幼稚舎を構えあらゆる企業のトップクラスとの人脈も豊富。早稲田も’02年に早稲田実業初等部を創立したが、幼稚舎ブランドとは比ぶべくもない。

一方で、早稲田には、出身地や学部、職域別に集まる「稲門会」という組織がある。

以前は、三田会とは対照的にビジネスにつながらなかったが、最近は、徐々に集まりも増えているという。OBの人脈が拡がるのは、決して悪いことではないのだが……。

「それまでの早稲田は良くも悪くも群れない学生が多かった。集まりはするんだけど、肝心なところは一匹狼というか、自分一人で考えて決める力がありました。

ユニクロの柳井正会長兼社長(69歳・政経卒)なんか、まさにその典型例です。政経出身の本当に優秀な人材はそもそもサラリーマンには向いていないのかもしれません。

それが変に周りを気にして、無難な道を選択する生徒が増えてきた。これはちょっと寂しいことですね」(ベンチャー企業の役員)

 

前出・石渡氏が語る。

「東大は別格ですが、早稲田だから内定が取れる時代はもう終わりました。どの企業も人間性を重視するので、明治や青学の生徒のほうが優れていれば、そちらを採用することも多々あります」

守りに入ったら、負ける――。早稲田の就活生には、もう一度攻めの姿勢を思い出してほしい。

「週刊現代」2018年7月14日号より

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