早稲田サロン(2025.01.11)
新春1月早稲田サロンは去る11日(土) 夕刻、 昨年3月に小金井稲門会に
入会された市原領太郎さん(1996年 文学部卒)を居酒屋「壱番館」に講師
役としてお迎えし「障がい者支援の現場から見えてきたこの国のかたち
と展望」と題してご講話いただきました。
大テーブル一卓、総勢14名で予定していた処、業務打合せの流れで飛び
入り参加者が1名あり、脇テーブルを急遽追加しての講演となりました。
小金井生まれの小金井育ち、都立小金井北高・卒で「生粋の小金井っ子」
の市原さんは 大学を卒業した1996年が「就職氷河期」の只中にあって、
志望する就職先に恵まれず 30歳の頃会社員生活にピリオドを打ち法人
を設立して自宅で業務委託で食いつなぐうち、お子さんの一人がうつ病
を発症したのを契機として、障害者支援に携わるようになったそうです。
この間に、同行援護・行動援護・移動支援(ガイドヘルパー)・相談支援の各
従事者初任者研修を修了しています。
わが国の「障害者支援」における推移をみると、現憲法で国民の権利とし
て規定された「基本的人権」(第11条)の保障を具体化する形で進められ、
2006年に国連で採択された「障害者の権利条約」に翌年署名し2014年に
これを批准します。その過程で「障害者自立支援法」から「障害者総合支
援法」に法の名称も変わり、2013年に従来の応益負担(所得の多寡に依ら
ない、サービス利用内容に応じた負担方式)から応能負担(累進課税的な
負担方式)に変更され、利用者の経済的負担の軽減が実現された経緯があ
ります。
市原さんが実際に携わっている現場での支援業務は知的・精神・発達障害
者と視覚障害者への支援が主体で、具体的にはグループホームや自宅生活
者の週末の余暇活動支援として行動援護・同行援護業務を行なっていると
のことです。支援に当たっては、利用者一人ひとりの特性に応じた個別の
配慮が必要なことは云うまでもありません。
以下、最近 市原さんが担当したという、40代の自閉症男性の事例が紹介さ
れます。
男性は単語レベルでしか意思疎通が図れず自傷他害歴があって、外出時は
街中にある自販機でコーヒーを買うことに強い執着があります。自販機を
見ると一目散に駆け寄り、「ビービー」と奇声を発し 時には機械を叩き意思
表示します。飲み物を購入するとこの行動は収まるものの、自販機と遭遇
するたびに買うため、1回の外出でこの日、結局5本程度を購入されました。
こうした現実を前に、「支援者としての基本姿勢」を市原さんはつぎのよう
に説きます。
まず、自販機でコーヒーを買うこと自体は本人の希望なので、やめた方がい
いなどと指導せず、買うことを支援します。また、急な走り出しなどの不穏
行動に際しては虐待にならないよう、細心の注意を払いながら安全の確保に
努めます。
支援者は「虐待の3つの類型」としての「言葉による制限」、「薬物による制限」、
「身体的な制限」について”厳に”慎まなければなりません。そうした場合は、
指導的な介入は避けて利用者当人のニーズを社会的文脈の中で最適化し、
必要な支援を提供することが肝要である、と云います。
但し、言語レベルでの意思疎通が困難な利用者のニーズを仕草や個人の特性
資料から読み取り これを実現可能な形に「翻訳」する作業は、ひとりとして同
じ障がいやニーズが同じ方はいないため、毎回個別対応が必要で業務上 最も
気を遣う場面となります。この「翻訳」を誤ると、利用者当人の不穏当な問題
行動につながることが懸念されます。
最後に、「政治的アプローチの必要性」について市原さんはつぎのように提言
します。
ケア理論を究める過程で 地域政治への関与の重要性を知り、支援者の労働条
件の改善や制度面の充実化を目指し活動を行なって来ましたが、わが国の地
域政治組織の弱体化という現実に直面しより広範な連携の必要性を痛感して
います。支援側の「質の向上」には政治的なアプローチと現場からの声の集約
が不可欠と考える次第です。。
分断と対立・不寛容が世の中を席巻するこの時代に、わたしたち自らが他人事
としてではなくこうした課題にどう取り組むべきかを突き付けられる想いの
2時間余の講演でした..
市原講師の身振り手振りの熱演も相まって、盛会のうちに会はお開きとなりま
した。
最後に 講演風景写真を添えご報告とさせていただきます。
以上
早稲田サロン世話人 岸川 公一 矢吹 淳