寄稿論文

小金井稲門会の皆様

2月11日に開催された2月早稲田サロンでは辻本英一氏に

お話しをしていただきましたが、大変含蓄のあるお話で

多くの会員の皆さんにもシェアして欲しい内容だと思いました。

そこで稲門会HP委員会の独断で辻本氏にお話しの内容を

是非論文に纏めていただきたいとお願いしたところ、

快く引き受けていただきました。

以下に辻本氏よりの寄稿論文を掲載しますので

2月早稲田サロンの雰囲気を感じてください。

 

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今日の日本並びに日本人のあり方を考える                                       

辻本 英一

 

   多くの日本人がそうである様に日本人そのものが自分たちの立ち位置がどんな状況にあるのか冷静客観的に考える必要がある。 今がどんな時代で将来がどうあるべきか?日本は今 1100兆円余りの財政赤字を抱えている。(個人資産は1700兆円と言われている。) 2016年10月1日現在約127百万人の人口を有し、10年間で95万人人口が減少。1920年の国勢調査開始後初めての減少。                 

   日銀の国債保有残高が400兆円を超えた現在、誰もこの財政危機から脱却しようとか、脱却出来るとも思っていない。 世界の金融の動き次第では万一にもギリシャと同じようなことが起きないとも限らない。起こった場合はギリシャ以上のダメージを被るに違いない。              

財政再建は殆ど手がつけられない状態なのかも知れない。今すぐに欧米諸国並みに消費税20%のコンセンサスが取れないことには相応の老人介護は有り得ないし、財政破綻を免れることも難しいのではなかろうか。                        

・2016年1月以来マイナス金利が日銀の金融政策に織り込まれて以来、金融マーケットの混乱よりも金融機関そのものが存亡の危機に晒されているのが現状。       

・米国のトランプ大統領出現により一挙に円安に振れ一定の経済効果は見込めるが最近では円高・円安に乱高下するなど為替の先行きは不透明、一方政治リスクの増大も影響して来る。保護貿易主義への回帰から自動車産業はじめマイナス面も懸念されており当面予断は許されない。                                    

   財政破綻やハイパーインフレの怖いところは年金生活者が直撃を受けることです。最近の事例ではエリツィン大統領時代のロシアはハイパーインフレに見舞われ年金生活者の窮乏が報道されたこともあります。第一次世界大戦後のドイツワイマール共和国に於いてはハイパーインフレが最も凄く手押し車一杯の札束でパン一個がやっと買えると言った状態でした。現在に於いて食料充足率が40%を割り込んでいる我が国の場合本当に最悪の事態になったらどのようなことになるのか計り知れません。        

 願わくはそのような事にならない最善の策が期待されます。

 

   ところで、我が国の歴史を振り返れば日本民族80年周期説が浮かんできます。此れと言った根拠がある訳ではないが、80年前後で繁栄、滅亡を繰り返してきた様に思われます。                                   

80年周期説の他に民族の特徴として感じるところを言えば、何事に於いても手の打ち様の無いところまで放置してしまう無責任体制をしばしば指摘される。 

そして、肝心なところで「勘どころ」を見失ってしまうのもこの民族の特徴かと思われる

 

 

   現代の日本人にとって武器を持った戦いと言えば太平洋戦争が代表的であるが、何故に戦争に突入することになったのか大変疑問の残るところである。          

何故太平洋戦争かと言うと、歴史に於いて人間の行動が素直に現れるのが戦争だと思います。命がけの戦い故に掛け値なしで実態が出て来るし分かり易い。しかしながら、織田信長の時代だと古すぎて歴史の真実が見えにくい。後世の人の創作もあるであろう、また後の世の為政者に不都合なことは歴史から消されることもあろう。その点史実の数、信憑性に於いても現代に近い太平洋戦争のほうが優れているし参考になる。

 ケントギルバード氏に言わせると、それは初めからフランクリンルーズベルトによる仕掛けだと言われている。                              

当初日本は北にソ連の脅威を感じ日中戦争の膠着状態から蒋介石を援護する軍需物資の援蒋ルートを断つ為に北部仏印「北ベトナム」に進駐することになった。         

更に南部仏印「南ベトナム」進駐することは日本が和蘭領インドネシアの石油を狙っていると見られ、米国は盛んに日本が南進したら日本向けの石油輸出をストップすると警告を発していた。日本の陸軍は単なる米国の脅し文言としか理解できず、民主主義の米国の越し抜けどもに戦争開始の意志はないと自分に都合の良い判断をして、南部仏印へ進駐してしまいました。ところが米国は警告どおり日本向けの石油、くず鉄の輸出をストップし日本の在外資産をも凍結してしまいました。これに驚いたのは寧ろ日本の海軍でした。   

確かに海軍にとって米国からの石油の禁輸措置は致命的でした。石油無しでは大艦隊も2年以内にくず鉄同然になってしまう。開戦の引き金は当初戦争に反対であった海軍側が引き起こしたと言えます。本当に米国が石油の全面禁輸に踏み切るか否か、肝心な判断が日本には出来なかった。国際連盟の脱退に於いても何と言われようと我慢して脱退せず世界の動きを周到に見定めるようなシツコサあれば違ったと思われる。但し、戦争を遂行する中で石油やくず鉄を殆どアメリカに頼っていたにもかかわらず、そのアメリカと戦争するとは全く理解に苦しむところですが、日本の知識者階級の人でも開戦の報を聞いて胸のわだかまりがスッキリ晴れた思いがしたと書き記した人もいた。今の日本人とは違い何か当時の人のアメリカに対する思いは別なものであったのではなかろうか。                   

日本人は個人個人大変優秀部類と思われるが、集団になると何故か自分達を見失ってしまう傾向があるようにも思える。戦後の経済発展は大変見事ではあるが、頂点に立つと我を忘れてしまい、誰かの言葉にもある様に「赤信号みんなで渡れば怖くない」などという表現に摩り替わり何処か結果に対しての無責任さが感じ取れる。戦争に対する長期的な戦略や計画もなく、突然付け焼刃的に作られた戦争計画書はあっても殆ど根拠に乏しく空理空論の理想論に近いものだと言われている。        

戦争にどう結末をつけるか誰も考えてもいない、無責任体制の中で感情だけが先行したのが現実だったのではなかろうか。若しくは、終戦処理まで誰も考える人は存在せず誰かがそれをやってくれるのではないかと言う淡い期待と一種の神頼みだったのかもしれない。   

   さて武器を持った戦いでは見事大敗戦を帰してしまったが、マネーの戦いではどうであったか。戦後一大経済躍進を遂げ更に真っ只中にあって、金融緩和を放置したのも「勘どころ」を見失った日本の悲劇だったのではないだろうか。今から思えばバブル経済の出発点はNTTの民営化だと思われる。当時の大蔵省自体今ほどではないが財政の建て直しを図る意味で、NTT民営化に伴うNTT株の高値売却をもくろみ株価上昇の環境づくりに励んだことは事実である。それが一株150万円を超える価格で売却、一時250万円を超える相場にもなった。

 

   話を日本民族80年周期説に戻そう。1945年日本建国以来の初めての敗戦、溯ること77年前は1868年{明治元年}。徳川時代から近代国家の明治時代になる明治維新である。チョンマゲの時代から散切り頭の時代。それを溯ること80年は1788年、田沼意次が亡くなった年である。現代の経済学者顔負けの経済活性化の大家田沼意次。余りの繁栄と賄賂の横行で息子意知{若年寄り}含め政権を追われる。それに続いて松平定信の寛政の改革が始まり、質素倹約の世界にもどる。更に溯ること79年、即ち将軍綱吉が1709年に没しその後遺症は徳川吉宗の享保の改革(1716年)によって治まることになる。質素倹約質実剛健、大岡越前等。更に溯ること77年の1639年は、鎖国令が出て海外と隔絶することのなり、ここから日本の独自文化が発達することになる。家康以来の徳川幕府の金蔵は綱吉の時代に底を尽き、放漫経営による幕府の財政破綻を逃れるべく終には金の含有量をそれまでの半分にした小判変造を行ったと言われている。更に79年遡ると1560年は桶狭間の戦い、信長が本格的に天下取りに変わるキッカケとなった戦い。

さて、今年は戦後72年日本の財政危機に加え世界全体がグローバリズムに限界を感じて来ている。この兆候としてイギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領の就任、中国のバブル崩壊と習政権の専横、ロシアのプーチンの独裁体制確立、中東のIS含めた混乱並びに難民問題、EUに於けるドイツ台頭並びにギリシャはじめイタリアやスペイン等の金融財政危機がどの様に影響していくかが課題。日本にもひょっとしたらハイパーインフレの時代が来るかもしれない。しかも80年周期を考えればあと10年位が問題だ。   

   今名目GDPを600兆円に引き上げようと言う議論があるが、本格的な人口減少過程では難しい課題だ。おまけにパート・アルバイトという低賃金のままでは消費支出は伸びない。そこで名目GDPを上げるためにも、同一労働・同一賃金という考えに立ち賃金アップによって消費支出を増やさねばならない。加えて先進7カ国の中で労働生産性は日本が最下位と言われている。何故生産性が低いのかは簡単に解決出来ることではないと思われる。恐らく欧米流の社会システムとは異なる日本との違いに原因があると思われる。ただ、GDPに対する赤字国債比率を下げる意味で600兆円まで名目GDPを引き上げる考え方が間違っているとは言わないが、もし可能であったとしても恒久的にその数字を続けられるかどうか議論の分かれるところであろう。

 

 

ところで日本の人口減少とは如何なるものか?2015年127・7百万人強の人口が2060年には8700万人になると言われている。大よそ45年間で4千万人人口が減ることは概ね平均すると毎年百万人近く減少することとなる。団塊の世代と言われた戦後のベビーブームの出生人口は昭和22年から24年の3年間で約8百万人あった。今日毎年の出生人口はほぼ百万人規模しかない。団塊の世代の後もほぼ2百万人位の出生人口は暫く続いたことを考えれば、65歳を迎え就労マーケットから2百万人がリタイヤーするのに対し1百万人の若者がマーケットに参入、差し引き1百万人の就労人口減少となることがパターン化することに他ならない。このことはGDPを考える上で大変なデメリットとなる。大変な労働者不足の時代に突入したことを意味する。現に働き手がいないことによる人手不足はあらゆる産業分野で言われている。                 

だからと言って日本の場合直ぐに外人労働者に頼ることは簡単には出来ない。既に飲食業界やIT業界などでは外国人が働いている現場はよく見かけるが、一定の資格を必要とする事業分野に於いては依然門戸が狭められているのではなかろうか。代表的には老人介護の為の介護士としての外国人の活用は多少緩和されたと言っても未だ例外にしか過ぎない。建設現場に於いても外国人労働者は見かけるが各種の資格要件が簡単ではない。採用側に結構コストがかかり採算よりも人手が足りない故の緊急避難策の域を出てないのではないか。まして保育園不足の状況下日本の母親達がいきなり外国人の保母さんに自分の子供を任せるだろうか?イギリスはじめ欧米先進国等においては保母さんの仕事は結構外国人が多く肌の色は問わない。。日本国の中での社会全体のコンセンサスを得るのにはまだ相当の年月を要するのではなかろうか。                        

島国であることによる特異な日本の体質は文明の衝突のハンチントンも日本列島は小さい島国にも係わらず別の文明圏にしている。                      

以上   

 

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辻本 英一氏

略 歴  昭和44年早稲田大学第一政治経済学部卒後(株)日本勧業銀行入行、

昭和585月スイス国際経営開発研究所(IMD)卒業 MBA取得、

平成65月(株)第一勧業銀行渋谷支店長、82月築地支店長を歴任、

平成111月日本土地建物(株)常務取締役関西支社長、

平成164月日本土地建物販売(株)代表取締役社長、

平成2012月(株)レイクウッドコーポレーション代表取締役社長、

平成253月(株)インテリックス(一部上場)相談役 現在に至る。