早稲田サロン(2025.02.08)

2月早稲田サロンは去る8日(土) 夕刻、一昨年9月に入会された藤田直行
さん(1992年 理工学部 機械工学科 修士卒)を講師役にお迎えし『2020年
12月 「はやぶさ2」カプセル回収の裏話』と題してご講話いただきました。
厳しい寒さの中をお越しくださった総勢14名の方々が居酒屋「壱番館」の
大テーブルを囲んでの講演会となりました。また特に今回、女性会員4名
の参加もあって外の寒さとは裏腹に華やいだ雰囲気の下での講演会とな
り、歓談も交えて時間は瞬く間に過ぎ、盛会のうちに 20時半過ぎにお開き
となりました..

地学部に所属し、日々の太陽黒点観測に精を出す高校生であった藤田さん
は、大学院を卒業した1992年春、科学技術庁(現 文部科学省)の研究職公務
員として採用され、「航空宇宙技術研究所」(東八道路沿い)で社会人として
の第一歩を踏み出します。
研究所では「計算科学」、「サイバーセキュリティ」の研究員として スーパ
ーコンピュータ(スパコン)部門に配属され、米国ヒューストンのIBM社に
客員研究員として1年間派遣された2001年には 滞在中に同時多発テロが
発生しています..
米国スパコン・プロジェクトに参画する等その後もスパコン技術者として
のキャリアを重ねた藤田さんは、行政改革の中で同研究所が2003年に独立
行政法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)に名称を変え発足して以降も 引
き続きスパコン部門に身を置き、2016年には同部門の責任者に就きます。

そんな中で、JAXAが打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」の地球への帰還
が2年後に迫った2018年の「はやぶさ2・カプセル回収の協力者募集」の機構
内での公募に対し「一介の助っ人」の積りで挙手した藤田さんですが、帰還
したカプセルの着地点を特定する「方向探査(DFS)」係の責任者(係長)が 急
遽、人事異動で不在となる中、これまでのキャリアを買われ 後任の係長と
して重責を突如、担うこととなります( ➡ やり甲斐は非常に大きい..)

カプセル回収計画は①「火球」段階 ②「落下傘」段階 ③「地表探査」段階 の3
段階に大別され、①は 高度2百kmレベルでの光跡の地上での観測と航空機
での雲上の観測。②は 高度10kmレベルでの降下する落下傘にぶら下がっ
たカプセルが発信するビーコンの地上5局からの計測(三角測量の原理での
位置特定)と、ビーコンが発信されない場合にマリンレーダによる発射した
電波を落下傘に反射させての位置特定。③は ヘリ及びドローンを使って
の着地点の探査。以上から成るそうです。ちなみに「予測精度」は,当初の
目標であった「2km以内」に対し、「3百m以内」の精度で実際の着地点を言い
当てたとのことです..
無事に落下傘が開くことを念じつつ、2020年11月、「はやぶさ2カプセル」の
回収予定地である豪州・ウーメラ砂漠に飛んだ藤田さんはじめ 回収班一行
は砂漠での灼熱の環境下で帰還したカプセルの回収作業を無事成し遂げる
と、最後の役目である分析作業(迅速にカプセル内のガスを採取する)を終え、
安全かつ科学的価値を損なうことなく「大気圏再突入~JAXA相模原のクリ
ーンルーム」までを「百時間以内で届ける既定」の処を、58時間という速さで
送り届けます..

カプセルが回収された2020年後半と云えば、新型コロナ(COVIDー19)が悪夢
の如く地球上を席巻していた最盛期で、回収班一行も「隔離生活」を免れ得
ず、カプセル回収前に国内と豪州で各2週間、カプセル回収活動期間(4週間)
には60%、さらに回収後帰国して2週間をそれぞれ、拘束されたそうです..
また前半の隔離が解除された直後の気温47℃、湿度5%、風速10m/s の過酷な
砂漠でのDFS設備の組立・調整作業には体力と同時にモチベーション(地球外
惑星からの帰還カプセル回収作業の最前線に立ち会う使命感)の維持が重要
であり、リモート会議を繋いでのラジオ体操、筋肉維持運動が不可欠だった
と、重責を担った立場から当時を振り返り、藤田さんは述懐します..

連日のCOVIDー19の暗いニュースの中で小惑星のサンプル採取に成功し無事
帰還・カプセル回収の明るい話題に世界中が久々に沸いた2020年末の報道の
裏に、こうした現場の大変なご苦労があったことを出席者一同は藤田さんの
講話を通じて改めて知った次第です..JAXA現役職員の多忙な立場で 丁寧
な説明資料を準備くださった藤田さんにこの場をお借りし、改めて厚く御礼
申し上げます。

最後に 講師近影と講演風景写真を添えご報告とさせていただきます。

 以上
     早稲田サロン世話人 岸川  公一 矢吹  淳